熱狂のeスポーツ市場に闇か光か? TECH.C.の「ストリーマー専攻」新設、その狙いと業界の未来とは?

近年、凄まじい勢いで成長を続ける日本のeスポーツ市場。その熱狂はとどまるところを知らず、市場規模は拡大の一途をたどっています。ゲームをプレイするだけでなく観戦を楽しむファン層も急増。それに伴い「ストリーマー」や「ゲーム実況者」の影響力も高まっています。今や、彼らはeスポーツエコシステムにおいて欠かせない存在となり、新たな職業として確立されつつあります。

そんな中、東京デザインテクノロジーセンター専門学校(TECH.C.)が、2026年4月入学者向けに「esportsストリーマー&ゲーム実況専攻」を新設すると発表しました。これは、まさに時代の要請に応える動きと言えるでしょう。

TECH.C.の新専攻:次世代ストリーマー育成への挑戦

今回TECH.C.が発表した「esportsストリーマー&ゲーム実況専攻」は、4年制のプログラムです。実況技術、動画編集、配信スキル、コミュニケーション能力といった、ストリーマーとして成功するために不可欠な知識と技術を総合的に学ぶことができます。これは、単にゲームが上手いだけでは務まらないストリーマーという職業の特性を捉えたものです。視聴者を楽しませるサービス精神、企画力、継続力、そして視聴者とのインタラクション能力など、多岐にわたるスキルセットの習得を目指します。

新専攻のために最新・最高峰のゲーミングデバイスや、映像・音響・照明設備を備えたイベント運営実習環境、さらにはストリーマー専用の配信ルームまで用意。充実したインフラは、実践的な技術トレーニングを行う上で大きな強みとなるでしょう。さらに、国内外の有名チームや企業との連携も強調します。過去にはTeam Liquid、DeToNator、NVIDIA、Twitchといった著名なチームや企業が来校した実績もあり、こうした業界との強固なコネクションも貴重です。

既存専攻との差別化

TECH.C.には既に「esportsプロマネージメント専攻(4年制)」と「esportsプロゲーマー専攻(3年制)」が存在します。今回、ストリーマーに特化した専攻を加えることで、プレイヤー、マネジメント、そしてコンテンツクリエイターという、eスポーツ業界を構成する主要な役割に対応する教育体制を整えた形になります。これは、業界内で求められる人材が多様化・専門化している現状を反映した動きと言えるでしょう。

なぜ今、ストリーマー育成なのか? 市場の現状と課題

TECH.C.がストリーマー育成に乗り出す背景には、どのような市場環境があるのでしょうか。

急拡大する市場とファン層

日本のeスポーツ市場は、驚異的なスピードで成長しています。2018年には約48億円だった市場規模は、2022年には100億円を突破し、2023年には146億円を超えました。2025年には200億円以上に達するとの予測もあり、その勢いは増しています。

日本のesports市場規模とファン数の推移

推定市場規模推定ファン数
201848億円
2020686万人
202178億円
2022100億円~700万人
2023146億円~856万人
2025180~218億円1,000万人

市場の拡大と並行して、eスポーツのファン(試合観戦・動画視聴経験者)も増加の一途をたどっています。2020年の686万人から 、2023年には856万人へと増加し、2025年には1,000万人を超えるとの予測も見られます。

ファン層の拡大は、ストリーマーやゲーム実況者といったコンテンツクリエイターへの需要も押し上げます。今や彼らが発信するコンテンツはeスポーツを楽しむ上で欠かせない要素となっています。

ストリーマーに求められる多様なスキル

しかし、ストリーマーとして成功するにはゲームの実力だけでは不十分。視聴者を引きつけ、楽しませるための多様なスキルが求められます。

  • エンターテイメント性: 視聴者を楽しませようとするサービス精神、企画力。
  • コミュニケーション能力: トークスキルや実況技術はもちろん、コメントやチャットを通じて視聴者と効果的にインタラクションする能力も不可欠。
  • 技術的スキル: 配信ソフトウェアの操作、適切な機材(PC、マイク、照明など)の知識、動画編集スキル、そして生放送中のトラブルに対応する能力も求められます。
  • 柔軟性と戦略性: 最新のトレンドを把握し、コンテンツ戦略を練る能力や、予期せぬ事態に対処する柔軟性も成功の鍵となります。

これらはプロゲーマーに求められるスキルとは全く異なります。TECH.C.がプロゲーマー専攻とは別にストリーマー専攻を設けたのは、このスキルセットの違いを明確に認識しているからでしょう。

教育・育成の課題:体系化の遅れと機会損失

ストリーマーの重要性が増しているにも関わらず、その育成は個人の才能や努力、独学に大きく依存してきました。もちろん、オンライン上には情報が溢れていますが、スキルを体系的に学び、実践的な経験を積む場は限られます。

近年、eスポーツ専門学校やコースが次々と登場し、状況は変わりつつありますが、ストリーマー育成に特化した長期的なプログラムはまだ多くありません。教育・育成システムが十分に体系化されていない現状は、いくつかの機会損失を生んでいる可能性があります。教育機関がストリーマー育成に本格的に取り組むことは、こうした課題を解決し、才能ある人材を発掘・育成する上で重要な意味を持ちます。

eスポーツ専門教育への期待と懐疑論

eスポーツ専門教育が台頭する一方で、その価値については様々な意見があります。

根強い懐疑論

  • プロになれる確率の低さ: 卒業してもプロとして成功できる保証はない。
  • 高額な学費: 年間100万円を超える学費に見合う価値があるか。
  • 学生の意欲や環境: 「ゲームをたくさんしたい」という軽い気持ちではないか、真剣に学ぶ環境と言えるのか。
  • 就職先の不安: 安定した就職先が限られているのではないか。

こうした批判に対し、学校側や肯定的な立場からは、専門教育ならではの価値が主張されます。

専門教育の価値

  • 体系的なスキル習得: コミュニケーション能力、技術スキル、イベント運営能力などを効率的・体系的に学べる。
  • 業界とのコネクション: 業界関係者とのネットワーク構築やインターンシップの機会が得られる。
  • 充実した学習環境: 高性能な機材や集中できる環境が提供される。
  • 就職サポート: 専門的な就職支援を受けられる場合がある。

TECH.C.の新専攻は、4年制という長期的なプログラムであること、卒業時に「高度専門士」の称号が付与されること、最新設備や業界連携を強調していることなどから、単なる「ゲームをする場所」ではなく、専門的なスキルと知識を深く学べる環境を提供しようという意図が見えます。これは懐疑論に対する一つの回答となるかもしれません。

4年制の専門学校修了者に付与される4年制大学卒業の学士と同等の称号である「高度専門士」が取得できます。3,400時間以上の授業で技術を確実に身につけることができるため、就職時に有利になる可能性があります。

https://www.tech.ac.jp/course/e-sports/streamer

体系化・仕組み化がもたらす未来:eスポーツ産業のさらなる飛躍へ

TECH.C.の新専攻設立は、eスポーツ、とりわけストリーマー分野における教育の体系化・仕組み化を進める重要な動きです。この取り組みにより、教育内容の標準化を通じて質の高い人材が安定的に育成され、コンテンツや業界全体の質の向上が期待されます。また、専門教育を受けたストリーマーの増加により、職業としての社会的な認知や評価も高まる可能性もあります。

体系的な教育環境が新たな才能の発掘を促し、育成のパイプラインが整うことで、業界の持続可能な成長を支えるエコシステムの構築が進むかもしれません。

情報出典

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000138144.html